VR技術を扱うベンダーは、仮想空間内での悪質ユーザーによるハラスメントを防ぎ、安全を確保するための取り組みを推進している。これに対して専門家は、「過剰な監視」による悪影響を指摘する。
企業は「メタバース」(巨大仮想空間)などの仮想空間を安全な場所にしたいと考えている。だが「ビッグブラザー」のような監視は避けなければならない。ビッグブラザーは作家ジョージ・オーウェルの小説『1984』に登場する、過剰な監視社会の頂点に立つ独裁者だ。
あらゆるやりとりや会話を記録することは、従業員間の自由な交流と関係構築を妨げる。例えばeXp World Technologies(Virbelaの名称で事業展開)、Microsoft、Meta Platformsといった仮想空間を運営するベンダーは、それぞれが提供する仮想空間において会話の記録を保存しない。
Microsoftは、メタバースを実現する同社のVR(仮想現実)サービス「AltspaceVR」のソーシャルハブ(エンドユーザーが自由に参加して交流できる公共空間)を閉鎖することを決定した。Microsoftはこの閉鎖を「メタバースの安全性を高めるための措置」と位置付ける。ただし、どう役に立つのかは説明していない。
ミシガン州立大学(Michigan State University)教授で、バーチャル会議を研究するラビンドラ・ラタン氏は、Microsoftの決定は「コミュニケーションを阻害しかねない過剰反応の一例だ」と言う。「仮想空間における有害で反社会的な行為は問題だ」と前置きした上で、ラタン氏は「交流の場を完全に排除するのは賢明ではない」と指摘する。仮想空間がソーシャル機能を削ることで、企業がテレワークに仮想空間を活用しにくくなることが同氏の懸念点だ。
Virbelaの共同創始者アレックス・ハウランド氏は、過剰な監視を避け、仮想空間におけるアバター(仮想キャラクター)の居場所だけを追跡することを提案する。これはハラスメント(嫌がらせ)の報告があった際に、被疑者が事件発生当時にその場所にいて、被害者に近づき過ぎたのが事実かどうかを確認する手掛かりになる。
こうした情報は、物理的な建物の防犯カメラ映像と同じく、特定の時刻に一緒に空間内にいた人物を特定できるとハウランド氏は考える。仮想空間内で他のエンドユーザーに付きまとわれたという苦情を受けたとき、Virbelaはそのようなデータを活用して苦情が事実であることを立証できたという。
ハラスメントを防ぐことができれば、仮想空間は企業が交通費やオフィス維持費を削減し、テレワーカーとオフィスワーカーの連携を強化する助けになる。「仮想空間を利用した業務は、対面で仕事をするより効果的である可能性がある」とラタン氏は話す。一方で「ベンダーは仮想空間を十分に注意して作成しなければならない」と同氏は言い添える。
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