HPEによる「Juniper買収」で何がどうなる? 製品への影響とユーザーの反応ネットワークを中心に広がる“買収の余波”

HPEは2024年1月にJuniper Networksの買収を発表した。両社には競合してきた事業領域もあれば、そうでない部分もある。買収の狙いと、それが製品群やユーザーにもたらす影響とは。

2024年03月12日 07時30分 公開
[Bob LaliberteTechTarget]

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 Hewlett Packard Enterprise(HPE)は2024年1月9日(米国時間)、ネットワーク機器ベンダーJuniper Networks(以下、Juniper)を買収する計画を発表した。買収額は約140億ドルだ。

 この買収はJuniperとHPE、HPE傘下のAruba Networksそれぞれのユーザーにとって何を意味するのか。ネットワーク機器ベンダーAruba Networksを過去に買収しているHPEが、なぜ新たにJuniperを買収しようとしているのか。製品群やユーザーにもたらす変化と併せて、この買収の影響を6つの視点で考える。

1.無線LAN やスイッチを変えるJuniperの技術

 JuniperはAI(人工知能)技術で駆動する仮想ネットワークサービス群「Marvis」を顧客に提供している。これはJuniperが2019年に4億500万ドルで買収したネットワーク機器ベンダー「Mist Systems」の技術をベースとしたものだ。AI技術によって事前のトラブルシューティングの障害予測を可能にすることや、対話型のインタフェースを用意していることが特徴だ。

 現在、ネットワークが複雑化し分散化する中で、企業は運用を効率化してユーザー体験(UX)を向上させる方法として、AI技術を使ったシステム運用「AIOps」に注目している。Marvisは無線LAN(Wi-Fi)からファイアウォール、ネットワークスイッチ、SD-WAN(ソフトウェア定義WAN)と幅広いポートフォリオに適用できる。

 HPEがJuniperを買収することで、MarvisをHPEのあらゆる製品やサービスに適用できる可能性がある。

2.データセンター向けネットワーク製品群

 HPEのデータセンター向けネットワーク製品の主なポートフォリオは、スイッチの「CX10000」シリーズと、HPEのサーバ向けにネットワーク機能やセキュリティ機能を提供するサービス群「Pensando」だ。Juniperは、インテント(意図)に沿って自律的に運用する「インテントベースネットワーク」(IBN)関連製品・サービスを含む、ハードウェアとソフトウェアの製品ポートフォリオを持つ。

 この差異が重要なのは、一部のアプリケーションや業界ではオンプレミスのデータセンターでの運用が依然として合理的であるためだ。HPEはJuniperを買収することで、データセンター向けの製品ポートフォリオを強化できる。特に、ネットワーク機器の設計、構築、管理の自動化を支援するソフトウェアを管理する「Juniper Apstra」は、HPEにデータセンター市場での競争するための強固な足場をもたらすと考えられる。

3.通信とクラウドサービス市場での相乗効果

 Juniperは、以前から通信事業者やクラウドサービスベンダー向けの製品とサービスに力を入れてきた。ルーターや、アクセスネットワークの仕様をオープン化する「Open RAN」(Open Radio Access Network)の技術、データセンター向けの広帯域幅のネットワーク製品などの市場で存在感を放っている。

 HPEにとっても通信事業者とクラウドサービスベンダーは大事な顧客だ。HPEとjuniperの製品を統合することで、両業界に網羅的に製品とサービスを提供できるようになる。

4.セキュリティ

 HPEは今回の買収を発表した際、セキュリティに関してはほとんど言及していない。しかしJuniperはデータセンターや企業の拠点向けのセキュリティ製品にも注力しており、HPEにとってセキュリティ分野でも買収の価値がある可能性がある。

 加えて、HPEが2023年に買収したセキュリティベンダーのAxis Securityによる製品・サービス群と、Juniperが2022年に買収したクラウド向けのセキュリティベンダーWiteSand Systemsの製品・サービス群を統合することで、セキュリティの運用をより効率化できる可能性がある。

 セキュリティの強化はほぼ全ての企業が直面する課題であり、特にセキュリティ人材の不足が続いている。両社の持つセキュリティの技術や製品をMarvisと組み合わせることで、セキュリティの人材不足を解消する手法を確立できる可能性がある。

5.生成AIのインフラ

 HPEとJuniperは、テキストや画像を自動生成するAI技術「生成AI」(ジェネレーティブAI)が、コンピューティングとそれを支えるネットワークにとっての商機になると認識している。これらを包括的に提供する能力は、競合との差別化要因となる。両社はイーサネット技術のコンソーシアム「Ultra Ethernet Consortium」のメンバーであり、イーサネットベースの技術提供の機会を探求している。

6.オンプレミス機器をサービスとして使うGreenLake

 HPEは従量課金制でITリソースを提供するサービス「GreenLake」で、Juniperの製品・サービス群を提供できるようになる。オンプレミス機器をサービスとして利用したいと考える企業は珍しくなく、GreenLakeは市場で強い存在感を発揮している。

 今回の買収において注意が必要なのは、HPEとJuniperには潜在的な相乗効果が期待できる一方で、重複する部分もあることだ。製品群の統合や合理化を初日に完了させる魔法のボタンはなく、取引完了前には限られた計画しか立てられない。

 取引完了までには、買収発表から10カ月から12カ月かかる見通しだ。その間に顧客からの質問は噴出するだろう。競合他社は、この期間を利用して不安、疑念、不振をあおる可能性がある。

 HPEのCEOアントニオ・ネリ氏とJuniper NetworksのCEOラミ・ラヒム氏は、買収後もAruba NetworksとJuniperを維持すると明言している。HPEがAruba Networksを売却する計画はない。製品ラインアップの合理化は計画されているが、プロセスは慎重に進められる。取引完了後、HPEとJuniperは計画を顧客に直接伝えるために多くの時間を割くことになる。その時まで、疑問への対処が求められる。

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