ソフトウェア開発の効率性は、企業の成長速度にも影響する。開発者が開発に専念し、生産性を向上させる上で、データ分析やAI技術はどのような変革をもたらすのか。
IT業界では、ソフトウェア開発者が引く手あまたの状態だ。だが、開発者当人はソフトウェア開発以外のさまざまな業務に時間を取られている。開発者の周辺業務を簡略化し、ソフトウェア開発に集中してもらうために、企業はどのような支援ができるのか。AI(人工知能)技術の台頭といった変化もある中で、開発者エクスペリエンスを向上させるために必要な視点を、専門家の指摘に沿って解説する。
調査会社RedMonkのアナリスト、スティーブン・オグレイディ氏は、近年のデータベースや開発ツール、インフラ用ツールの爆発的な普及が、開発者に多様な技術を提供したことを認識している。その一方で「開発者の活動が大きく分断され、非効率になった」とも指摘する。
「企業は、開発プロセスを高速化し、プロセス同士をより密接に連携させるために、開発工程を再構築することに重点を置いている」とオグレイディ氏は話す。経営陣がこうした分野に投資しているのは、生産的で円滑に働ける場を開発者に提供したいからだけではない。「迅速に反復作業を実行できる、生産性の高い開発者を確保することは、企業全体の生産性や革新性を向上させる唯一にして最良の手段だ」というのが同氏の考えだ。
この思想は、データベース管理システム(DBMS)ベンダーMongoDBの長期的ビジョンの一つだ。同社の最高製品責任者であるサヒーア・アザーム氏は、モダンなアプリケーションの開発には以下のステップが必要だと説明する。
ソフトウェア開発において関心が集まる分野の一つが、開発者を支援し、作業負荷を軽減するためのAI(人工知能)技術だ。
データ処理ツールベンダーIntegralの事例を紹介しよう。同社は、堅牢(けんろう)かつ処理時間が短いソースコード記述を支援するツール「Robin AI」を、社内向けに開発した。Robin AIは大規模言語モデル(LLM)の「GPT」を搭載しており、自然言語処理(NLP)機能を使ってソースコードの変更をレビューする。ソースコードレビューを自動化することで開発プロセスを効率化し、開発者が高品質なソフトウェアの開発に集中できるよう支援をする。
Integralは2023年、Robin AIをオープンソース化した。Integralの共同設立者兼CTO(最高技術責任者)であるジョン・キューン氏によると、Robin AIは同社のエンジニアリングチームの製品開発を加速させ、バグを減らすことに大いに役立っている。「Robin AIをオープンソース化することで、世界中の開発者がソースコードの変更に伴うレビューを自動化、最適化して、ソースコードの品質と開発の生産性を向上できることを願っている」とキューン氏は語る。
ソフトウェア開発者の作業効率を向上させるとは、本質的には何なのか。それは、開発者がソフトウェアを容易に構築、運用できるように、関連情報を収集する作業の負担を軽減することだ。
音楽配信サービスを運営するSpotifyは、開発者用ポータルサイト構築ツール「Backstage」を開発した。これは同社の開発者チームが、開発をスタートさせる前の段階で時間を情報収集に費やしている事実から着想を得たものだ。Backstage開発の目的は、同社が利用する開発者ツールとインフラをまとめて管理するためのツールを構築して、ソフトウェア開発の始まりから終わりまでを一元化し、簡素化することだった。社内向けツールだったBackstageは2020年9月、オープンソースプロジェクトとしてCloud Native Computing Foundation(CNCF)の管理下に置かれることになった。
IT部門が少ない人手で多くのことをこなさなければならない場合、開発者の作業効率はますます重要になる。「ソフトウェア開発に対する需要は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)によってさらに拡大し、既に不足状態だった開発者にいっそうストレスを与えている」。調査会社IDCで、ソフトウェア開発およびオープンソース担当グループバイスプレジデントを務めるアル・ギレン氏は、そう話す。
「IT業界の企業はソフトウェア開発にAI技術を導入して、自動化を推進し、情報をより見つけやすくする取り組みを推し進める」とギレン氏は考える。これらの取り組みを支えるAI技術は、新規ソフトウェア開発だけではなく、既存アプリケーションのモダナイゼーション(近代化)にも活用される見通しだ。
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