「Wi-Fi 7」は後回し なぜ企業は“無線LANの進化”に興味がない?無線LAN“乗り換え”の現実【後編】

無線LAN(Wi-Fi)の最新規格「Wi-Fi 7」では旧世代の無線LANに比べて複数の新機能が実装されているが、現状は導入している企業は限られている。企業がWi-Fi 7への移行を決断しない背景にあるものは何か。

2024年10月03日 08時15分 公開
[David WeldonTechTarget]

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 無線LAN規格「Wi-Fi 7」(IEEE 802.11be)に準拠した無線LAN アクセスポイント(AP)が市場に出回り始めたが、企業によるWi-Fi 7導入は進んでいない。「Wi-Fi 5」(IEEE 802.11ac)や「Wi-Fi 6」(IEEE 802.11ax)によって構築した無線ネットワークがまだ広く企業の役に立っている。以降で紹介する通りWi-Fi 7では幾つもの進化が起きているにもかかわらず、なぜ企業はWi-Fi 7に移行しないのか。

なぜ企業は「Wi-Fi 7の進化」に興味がないのか

 調査会社AvidThinkの創業者でプリンシパルのロイ・チュア氏によれば、Wi-Fi 7は次のような高度な機能を実装している。

  • マルチリソースユニットパンクチャリング
    • ユーザーに複数のリソースユニットを組み合わせて割り当てるマルチリソースユニット技術と、干渉をブロックするプリアンブルパンクチャリング技術を組み合わせることで、チャネル(データ送受信用の周波数帯)利用効率を最適化する。
  • マルチリンクオペレーション(MLO)
    • 無線LANデバイスが異なる複数の周波数やチャネルで同時にデータを送受信する。
  • アップリンクとダウンリンクの「MU-MIMO」(マルチユーザーMIMO)
    • アクセスポイント(AP)が利用する電波の帯域幅を複数の空間ストリーム(通信経路)に分割する。これによって単一のAPが同時に複数のクライアントデバイスと接続できるようになる。
  • ターゲットウェイクタイム(TWT:Target Wake Time)
    • APが各デバイスと通信するタイミングを調整して電波の競合を抑え、デバイスの通信モジュールは、スケジュールした時間になるまでスリープ状態になることで電力消費を削減する。

 大半の企業ネットワーク内のクライアントデバイスはWi-Fi 7に準拠しておらず、これらの新機能を活用することができない。「古いクライアントデバイスがネットワークに多数あると、新しい無線LAN規格にアップグレードする意欲が下がる要因になる」とチェア氏は分析する。無線LANだけアップグレードしてもネットワーク機器や、エンドユーザーが利用するクライアントデバイスの処理性能にユーザーエクスペリエンス(UX)は左右されるからだ。

 ネットワークエンジニアのコミュニティーを運営するNetwork Automation Nerdsの創業者であるエリック・チョウ氏は「統一されたベンダーサポートやドキュメント、ネットワークに関する知識が不足していることも、企業におけるWi-Fiのアップグレードが進まない主な要因だ」と述べる。

 無線ネットワークに関するコンサルタントを提供するEJL Wireless Researchのプレジデント、アール・ラム氏は「通信容量やスループット、その他の性能指標がアップグレードを必要とするしきい値を超えたときに、Wi-Fi 7にアップグレードする組織は増える」と予測する。

 各種業界団体の調査は、企業が間もなくWi-Fi 7を導入する計画であることを示している。例えば、無線LANの業界団体Wireless Broadband Allianceの2023年11月のレポートでは、回答した200組織のうち41%以上が、2024年末までにWi-Fi 7を導入する予定だと答えている。7.5%は、すでに導入済みと回答した。

 チュア氏によれば、AvidThinkの調査結果もWBAが出した調査結果を肯定している。「企業は今後12〜18カ月の間にWi-Fi 7にアップグレードしたいと考えているようだ」(同氏)

 無線LANをアップグレードする前には、ネットワークスイッチや無線LANケーブルなどのインフラを段階的に強化することで、ネットワーク全体の伝送容量や信頼性を高めることができる。

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