Facebookが進めるハードウェア設計のオープンソース化が動き出した。今回満を持して発表した「Wedge」は従来のネットワークスイッチ市場を大きく変える可能性を秘めている。
Facebookは2014年6月中旬、イーサネットスイッチングと同社主導の「Open Compute Project」(以下、OCP)における同社の取り組みの大きな一歩となる成果を発表した。発表されたのは、ToR(Top of Rack)ネットワークスイッチと、このスイッチ用のLinuxベースOSだ。
Facebookにおけるサーバやスイッチへの需要は膨大だ(それに匹敵するのは、猫の写真に対する世界の需要ぐらいのものだろう)。そこで同社は、拡張性のあるネットワーキング機器の設計を精力的に進めてきた。Facebookがこれらの仕様を公開することで、他社はそれらを複製して利用し、恩恵を受けられるだろう(もっとも、本稿を執筆した6月末時点では、公開する計画は既に発表されているが、Wikiページはまだ閑散としているが)。
これがネットワークを取り巻く状況に、短期的および長期的にどのように影響するのか。最終的には、それはあなたがITシステムの利用者であるか提供者であるかによって異なるが、いずれにせよ、Facebookが今回発表したスイッチとその重要性を理解しておいて損はない。
Facebookが発表した「Wedge」(コードネーム)は、強力だが比較的シンプルなToR設計となっている。どのようなデータセンターに設置されていても目立たないだろう。このスイッチの特徴は、筐体に何が搭載されているかではなく、何が削られているかにある。
基本的なToRスイッチであるWedgeのハードウェアは、柔軟性を実現するため、1ラックユニット(RU)の筐体に市販のネットワーク機器用ASIC、40ギガビットイーサネット(GbE)ポート16個、二重電源、ファンを搭載している。さらに、従来のスイッチで使用されてきたような処理能力が、標準PCI Expressバスで接続されるスティック上のマイクロサーバボードから提供される。このボードはOCPの「Group Hug」アーキテクチャに基づいている。
特殊な相互接続技術やトリッキーな仕掛けもなければ、プロプライエタリなフィールドバスやクローズドソフトウェアも一切見当たらない。ここでは、多数のサーバ間でデータをやりとりする極めてシンプルな方法が実現されている。
FacebookはWedgeにおいて特別なソフトウェアは使用せず、代わりにオープンソースOSの「Linux」をベースに独自のソフトウェアスタック「FBOSS」(コードネーム)を開発し、Wedgeとともに発表した。FBOSSは、Facebookが自社のニーズに合わせてカスタマイズできるようになっている。このため、同社のアプリケーションおよびサーバ群と密接に連携して動作することが可能だ。Facebookはこのプラットフォームをオープンソースとして公開することで、現在よりもその開発コストを削減できそうだ。同社が掲げる意義に共鳴して、FBOSS開発に参加する協力者が出てくると考えられるからだ。
Facebook(およびWedgeとFBOSSによるアプローチを選択する企業)にとって重要なもう1つのメリットは、サプライチェーンの制約から解放されることにある。商用スイッチの製造からデータセンターラックへの設置までの道のりは長く複雑だ。例えば、基幹コンポーネントのサプライヤーが納期を守れなかった場合や、火災でサプライヤーの1社が6カ月ほど操業停止に陥ったような場合には、スイッチベンダーは重大な影響を被ることになる。必要となるソフトウェア修正やリグレッションテスト、流通およびハードウェアメンテナンスチャネルへの在庫補充には時間がかかる。顧客はベンダーの事情に振り回され、納入の遅れに直面する羽目になるかもしれない。
Facebookは最新の戦略により、こうした制約の多くを免れている。スイッチの基幹部品を直接管理することで、コンポーネント変更が必要になっても、展開スケジュールに影響を与えずに、代替コンポーネントを選択し、テストし、次のソフトウェア更新に合わせて組み込みを行うことが可能になっている。中間業者の介在がなければ、問題解決にかかる時間は大幅に短縮される。
こうした取り組みの進展は、市場全体にどのようなインパクトを与えるのか。短期的には影響はほとんどないだろうが、FacebookやGoogleのような企業の動向には、他の大手インターネット事業者も追随するだろう。ハイエンド製品の顧客であるこれらの企業がハードウェアベンダーから高価な製品を購入する理由は乏しくなりつつある。コストの削減とオペレーションの柔軟性を実現しなければならないと考えさせる要因が増大しているからだ。
ただし、ネットワークインフラを自前で用意するアプローチを採用するには、慎重な検討を要する。このアプローチを取る場合、中規模程度のベンダーやインテグレーターの開発リソースを自由に利用できることが必要になる。ハードウェアを構築し、その用途に適したソフトウェアイメージを作成しなければならないからだ。
ネットワークインフラのイノベーションを自ら実践するか、他社にお金を払って委託するかは、大きな分かれ目だ。あなたの会社がプラットフォームやサービスをリースする場合には、OCPは潜在的なパートナーベンダーの先見性や競争力の指標としてしか興味を引かないものとなるだろう。
サービスを提供するあらゆる事業者にとって、予算と必要性に応じてネットワークコンポーネントを購入して組み立てるこの方法は、大いに意義がある。一方でネットワークベンダーは大口顧客を失い、ハイエンド顧客でなく販売数量を重視せざるを得なくなるだろう。
大口顧客が離れた分、ITネットワークサービスの選択と実現に積極的な役割を果たし続ける企業顧客は、ベンダーから新たに注目されることになる。
こうしたコモディティ化はまず避けられない。しかし、それはネットワークを自前で構築するかどうかにかかわらず、最終的には全ての企業にとってオペレーションコストの低減につながるだろう。
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