人気番組『M-1グランプリ』の敗者復活制度は、視聴者による投票で成り立っている。システム停止は番組進行に影響を及ぼすため許されない。毎秒数万件のアクセスにも耐え得る仕組みを朝日放送はAWSで構築した。
テレビ番組でよく見掛けるリモコンのデータ放送ボタン「dボタン」からの投票。大阪の放送局である朝日放送(以下、ABC)は、そのシステムをクラウドサービス群「Amazon Web Services(AWS)」を使って構築。2017年6月開催のAWS関連イベント「AWS Summit Tokyo 2017」で発表した。ABCは全国ネットの番組も数多く制作している。漫才コンテスト番組の『M-1グランプリ』もその1つで、高い視聴率を誇る。番組では予選落ちした芸人の中から視聴者が選んだ1組を決勝戦に出場させる敗者復活制度を採用する。視聴者からの投票を集計するシステムは、AWSを使って構築したという。
ABCは社内に技術局開発部という部門を持ち、多くのシステムを内製している。そのほとんどをオンプレミスで構築しており、クラウドの活用が早かったわけではない。ABCで技術局開発部に勤める小南英司氏は「視聴者がアニメを見ながら一緒に楽しめるアプリをリリースしたり、野球速報やライブ動画配信にも携わってきたりしました」と語る。これらのシステムを含め、2015年にM-1グランプリの投票システムを構築するまでは、全てのシステムをオンプレミスで構築してきたという。
実は過去に構築したシステムの中には、番組と連動する投票システムもあり、2012年から稼働実績を積み上げてきた。社内では「ABC放送通信連携システム」と呼ばれ、データ放送コンテンツの制御やSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)との連携機能、視聴者投票集計機能を備える。機能不足もなく、今でも多くの番組で使われているという。ではなぜABCはM-1グランプリ用の投票システムを改めて、しかもクラウドを使って構築し直したのか。
クラウドを、中でもAWSを採用した理由は大きく2つある。「1つは視聴率の高い看板番組であり、高速な処理と1秒たりとも止まらない可用性を両立するため。もう1つは短期間で開発するためです」(小南氏)
2008年の決勝戦放送時には関西で35%の視聴率をたたき出したこともある人気番組だけに、かなり多くの視聴者が投票に参加する可能性がある。しかも番組連動企画では、テレビを通じて投票を呼び掛けた直後に爆発的にアクセスが集中する。広告などでスパイクアクセスと呼ばれるこの現象は、サーバに非常に高い負荷を掛けることになる。それに耐えられるだけのサーバリソースを社内で用意するのは難しいと、ABCは考えた。
「この敗者復活戦は番組構成上、重要な要素です。もしシステムが負荷に耐えきれなかった場合、番組構成にも影響を与える恐れがあります」(小南氏)。そこで注目したのがAWSだった。マネージドサービスなので「サーバの増設や設定値のチューニングをオンプレミスに比べて格段に省力化できます」(同氏)。
もう1つの理由である短期間での開発だが、なんと要件をまとめて仕様を決定したのは放送の約1カ月半前。43日間で開発を終え、9日間の検証期間を経て2015年12月6日の放送を迎えた。開発に携わったのは、社内のエンジニア2人のみ。豊富に公開されているドキュメントやSDK(ソフトウェア開発キット)を活用することで、学習コストも開発コストも抑えることができたのだという。
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