オンプレミスとクラウドを賢く使い分ける4つのポイントとは?「脱クラウド」が意味するもの【第4回】

「脱クラウド」で考えさせられるのは、結局オンプレミスのインフラとクラウドサービスは何が違うのかという点だ。両者の間で明確に異なる点を考察する。

2020年08月18日 05時00分 公開
[遠藤文康TechTargetジャパン]

 インフラの運用やサイジングの負荷を考慮すると、オンプレミスのインフラからクラウドサービスへの移行(以下、クラウド移行)が進むのは自然な動きだと見なせる。それでもEMCジャパンでハイパーコンバージドインフラ(HCI)やクラウド分野のプリセールスを担当する平原一雄氏の言葉を借りれば「クラウドサービス一択の時代ではない」。クラウド移行を選んだ企業が、オンプレミスのインフラに回帰する「脱クラウド」に踏み切る企業がある背景には、オンプレミスのインフラにも合理的なメリットがあることの証左だと言える。

 オンプレミスのインフラとクラウドサービスの「どちらが良いか」を考えることは、さほど重要ではない。より重要な検討事項は「どう使い分けるか」だ。オンプレミスのインフラとクラウドサービスの違いを明確に把握した上で、各システムに適したインフラを選択する必要がある。オンプレミスとクラウドサービスを賢く使い分けるための、4つのポイントを見ていこう。

使い分けのポイント1:データガバナンス

 インフラを選択する上で重要な観点として、データの生成、蓄積、公開、利用といったライフサイクル全体を管理・統制する「データガバナンス」がある。データガバナンスは、オンプレミスのインフラとクラウドサービスの使い分けを考える一つのポイントになる。日本オラクルでクラウド事業を統括する佐藤裕之氏は「データを外部に出してもいいかどうかを基準にして検討すべきだ」と話す。

 米国では通称「CLOUD Act」(クラウド法)が施行した。CLOUD Actは、米国に拠点を置く企業が米国外で保有するデータに対して、米国の法執行機関が開示を要求できることを取り決めた法律だ。CLOUD Actの「CLOUD」はクラウドサービスの意味ではなく「Clarifying Lawful Overseas Use of Data」の略称だが、CLOUD Actはクラウドサービスのユーザー企業に影響を及ぼす。クラウドベンダーなどデータセンターを運営する企業が、CLOUD Actの規制対象になる可能性があるからだ。

 企業側はデータ開示の要求に対して取り消しを求めることもできるため、CLOUD Actによって直ちにユーザー企業のデータが開示されるリスクがあるわけではない。それでもクラウドサービスで機密情報を扱う可能性がある企業にとっては懸念すべき問題ではある。

使い分けのポイント2:カスタマイズ性

 システムに適したハードウェアを選択できるかどうかも、オンプレミスのインフラとクラウドサービスの使い分けを考える上でのポイントだ。一般的にクラウドサービスのインスタンス(仮想サーバ)は、仮想CPU(vCPU)やメモリなどのリソースが一定の割合に基づいて事前構成され、あらかじめ用意されたインスタンスタイプの中からユーザー企業が選択する仕組みを採用している。大容量のメモリを必要とする「メモリ集約型」、高速な処理速度を必要とする「CPU集約型」といった、用途に応じたインスタンスメニューもあり、ある程度は最適化が可能だ。

 オンプレミスのハードウェアも一定のスペックの中から選択する点は同じだが、特定の用途のために特別なカスタマイズができる点が異なる。クラウドサービスは必要に応じて迅速にリソースを変更できるため、運用状況に応じて最適化をしたい場合はクラウドサービスの方が向いている可能性がある。

使い分けのポイント3:リソースとコストのバランス

 リソースとコストのバランスを取れるかどうかも、インフラを使い分ける上で重要なポイントだ。オンプレミスのインフラの場合、コストは設備投資(CAPEX)型であり、ユーザー企業が必要に応じてリソースを調達して運用する。初期投資額が高額になりがちなのが特徴だ。クラウドサービスのコストは運用経費(OPEX)型であり、利用するリソースに応じてコストが増加する。余分なリソースが生じれば、それだけ余分なコストが増えることになる。

 クラウドサービスのインスタンスは、vCPU数を増やせばメモリ容量も増えるように構成されていることが一般的だ。例えばクラウドサービスのインスタンスを選択する際、処理速度を優先するとしよう。その場合、vCPU数の多いインスタンスを選択することで、本来必要な容量以上のメモリを抱える、といった事態が起こり得る。平原氏は「その余分なコストを課題に感じる企業はあるだろう」と語る。

 とはいえ、最近はオンプレミスのインフラ製品をIaaS(Infrastructure as a Service)のように従量課金型で提供する製品/サービスも登場している。この点ではオンプレミスのインフラとクラウドサービスは近づきつつあると言える。

使い分けのポイント4:システム特性を考慮すべきケース

 日本IBMでクラウド事業を統括する二上哲也氏は、クラウドサービスで運用することに懸念があるシステムの例に「集中的な処理が必要なシステム」を挙げる。例えばクレジットカード事業の定期的な請求処理など、集中的な処理を要するシステムだ。「決められた時間に大量のタスクを実行しなければならない場合、マシン自体のパワーが必要になる」と二上氏は話す。こうしたシステムはインフラを他ユーザーと共有するクラウドサービスよりも、リソースを占有して特定の時間に集中投下できるオンプレミスのインフラの方が適していると言える。


 本稿で触れたようなオンプレミスのインフラとクラウドサービスの違いもあれば、従量課金制をはじめとして両者の差を小さくしている要素もある。次回はその点を踏まえつつ、インフラ構築で考慮すべき点を紹介する。

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