全世界の銀行でクラウドサービスの採用が進んでいる。その理由とは何か。銀行のIT戦略の動向は。調査結果を基に説明する。
銀行がクラウドサービスを導入する最も一般的なきっかけはコストの削減だ。ほぼ4分の3は、自行の優先度の高い業務を実現するには、クラウド移行が不可欠だと考えている――。これは経済誌『Economist』の調査部門Economist Intelligence Unit(EIU)が、金融ソフトウェアベンダーTemenosの出資を受け、世界200人以上の金融機関幹部を対象に実施した調査の結果だ。
この調査を基にしたレポート「Capturing value in the cloud」によると、調査に回答した全世界の銀行のうち42%がクラウドサービス導入の主な理由にコスト削減を挙げているのに対し、顧客サービスの向上を挙げたのは21%だった。銀行のIT部門幹部の82%はクラウドサービス導入に関して明確な戦略を持っていることも明らかになった。
調査レポートによると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)が銀行業界でのクラウドサービス導入に拍車を掛けている。調査レポートには次のように記されている。
銀行のクラウド移行は他の業界よりも遅れている傾向にあります。しかしパンデミックが始まり、銀行がコスト削減とデジタルトランスフォーメーションプロジェクトの立ち上げを進めたことで、SaaS(Software as a Service)とクラウドインフラ(中略)の導入が加速しています
競争相手となるチャレンジャーバンク(免許を取得して銀行サービスを提供する新興企業)の躍進を受け、従来型の銀行はシステム開発に後れを取らないようにするためにクラウドサービスの採用を進めている。一方で新規参入するチャレンジャーバンクは、迅速に新たな市場を獲得するためクラウドサービスを利用している。調査レポートによると、クラウドサービスを利用する銀行は、データから迅速に洞察を得られるようになり、デジタル施策を実施する速度も上がっている。
それでもクラウドサービスの導入を妨げる障壁が依然として存在する。セキュリティやプライバシー、コンプライアンス、ガバナンスなどへの懸念がその例だ。後編は、銀行がクラウドサービス導入で抱える課題を、調査レポートを基に確認する。
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