社内の誰もが納得し、企業の成長につながるIT予算を組み立てるこつは何か。IT投資の可視化と分析を支援する「FinOps」の専門家が、IT予算を考える上で重要な方針について説明する。
世界的な景気低迷が続いている。ただし経済の逆風が企業に吹き付ける中でも、チャンスは存在し、将来像を設計する方法はある――そう語るのは、業務管理ソフトウェアベンダーApptioのピート・ウィルソン氏だ。Apptioは、IT部門、財務部門、事業部門が連携しながらクラウドサービスのコスト管理に取り組む手法「FinOps」(注1)の支援ツールを提供している(2023年6月にIBMが買収)。ウィルソン氏はApptioのアジア太平洋地域担当カスタマーサクセス部門でバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーを務める。
※注1 FinOpsは「Finance」(財務)と「DevOps」(開発と運用の融合)から生まれた造語。
最高情報責任者(CIO)や最高財務責任者(CFO)といった経営層のメンバーが、着任後初めて財務上の課題に直面した場合、どこに目を付けるか。IT予算に注目する場合、新規の支出を減らすためにレガシーなITインフラを活用することで、将来に備えた資金作りに励むという考え方がある。
ウィルソン氏はこのような考え方を「短絡的な措置だ」と指摘する。デジタル化が進む社会の中でIT予算の削減に力を入れるのは、企業が成長する上で長期的な戦略を組み立てることを難しくする可能性があるためだ。
調査会社Gartnerのバイスプレジデント兼アナリストのスチュワート・ブキャナン氏はこの指摘に同調する。「経済が不安定な中でも、デジタル技術を活用して業務の効率化とコスト削減を実現し、顧客への提案や収益を改善している企業は存在する。このような動きが意味するのは、安定したIT予算の確保が企業の成長には必要だという視点だ」
短絡的にIT予算を削減するのではなく、投資計画を柔軟に見直し立案することと予算の再配分に重点をおくことが大切だ、とブキャナン氏は主張する。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(感染症の世界的な流行)の発生や、そこから派生したサプライチェーンの問題、インフレなどの要因によって、企業は予想外の支出を強いられた。経営層は、過剰と思われる支出については整理し、定期的に投資計画を見直す必要がある。
支出の整理や投資計画の見直しにどう取り組むか。まずは投資しようとしている項目に「運営」「成長」「変革」というカテゴリーを付与して優先順位を付け、コストの削減や予算の再配分が可能な案件を特定する。例えば、使っていないソフトウェアの更新を停止したり、通信料金が高額な場合は再検討したり、といったことだ。
ブキャナン氏は、オーストラリア証券取引所に上場しアジア太平洋地域で営業している金融機関に対して、聞き取り調査を実施した。その金融機関は、IT支出の管理に取り組んだ最初の30日間で、1200個の不要なサービスの利用を停止したという。
後編は、IT予算の配分や最適化を図る上で大切な視点について、ウィルソン氏の考えを紹介する。
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