クラウドサービス群のAWS、Azure、Google Cloudにはそれぞれ競争してきた歴史があり、各社の優位性は異なる。AI関連では各クラウドサービスにどのような強みがあるのか。
テキストや画像などをAI(人工知能)技術で自動生成する「生成AI」(ジェネレーティブAI)の市場はまだ発展途上だ。ベンダー同士の競争もまだ初期段階にある。
Amazon Web Services(AWS)、Microsoft、Googleといった主要クラウドベンダーは、AIモデルからチップ(半導体集積回路)、ソースコードを生成するコーディングアシスタント機能まで、AI技術関連の各分野で競合している。各社の優位性はどこにあるのか。
AWSはクラウドインフラの分野で強い影響力を持つ。調査会社Gartnerが2023年7月に発表した調査結果によれば、IaaS(Infrastructure as a Service)市場におけるAWSのシェアは2022年時点で40%に達する。
Microsoftはソフトウェア領域で先行者利益(市場に先に参入することで得られる利点)を堅持している。Web開発ツールベンダーPantheon Systemsで最高技術責任者(CTO)を務めるデービッド・ストロース氏は次のように述べる。「当社はオフィススイート『Google Workspace』のユーザーであると同時に、社内のソフトウェア開発者はMicrosoftのソースコード自動生成ツール『GitHub Copilot』を使用している」
ストロース氏は、コーディングアシスタントの市場におけるGoogleの立ち位置については次のように述べる。「Googleにはソースコード共有サービス『GitHub』も、『Visual Studio Code』のように広く採用されているソースコードエディタもない」
Googleには人気のあるオフィススイートとしてGoogle Workspaceがある。Google Workspaceで使える生成AIツール「Duet AI」には、AIモデルの「Gemini」が統合される。
GoogleはGeminiによってソフトウェア開発者の関心を引きたいはずだ。しかしソフトウェア開発者にとって、コーディングアシスタントを含む開発ツールを選ぶ基準は、AIモデルの処理性能で決まるほど単純ではない。ストロース氏は「性能においてGeminiがGPT-4よりも圧倒的に優れているわけではない」とも指摘する。
一方で、選択する際の一つの基準になる可能性があるのは、データ保護規制の対象となるデータがあるかどうかだ。欧州連合(EU)の「一般データ保護規則」(GDPR)に準拠するため、Pantheonは自社のデータがどこで保管するのかをとても気にしているという。同社はデータをGoogleのクラウドサービス群「Google Cloud」に集約する方針だが、データ保護規制の観点では、IaaS市場で圧倒的なシェアを持つAWSに有利に働く可能性がある。
コーディングアシスタントツールという視点でもGoogleは後れを取っている。ソースコード生成のAIアシスタント「Amazon CodeWhisperer」は、IaaS市場で最大のシェアを持つAWSの各種サービスと連携できる点が強みになっている。
AWSは、2023年11月から12月にかけて米国で開催された年次カンファレンス「AWS re:Invent 2023」で、さまざまなニュースを発表した。特に注目を集めたのは、生成AIサービス「Amazon Bedrock」(以下、Bedrock)にAIチャットbot「Amazon Q」が搭載されたことだ。
ある業界関係者はBedrockについて、さまざまなタスクやアプリケーションを実行・連携可能な点が、他の生成AIツールとの差別化につながっていると説明する。例えばBedrockに新たに搭載されたAmazon Qは、AWSのマネージドコンソールから対話形式でサービスの選択やトラブルシューティングを手伝ってくれる。
AWSのツール開発における透明性も差別化要因の一つだと業界関係者は見る。例えば、Amazon QのJavaコード変換ツール「Amazon Q Code Transformation」の一部は、自動リファクタリングツール「OpenRewrite」をベースにしていることが明らかになっている。
テクノロジー業界の分析を専門とする調査会社Platify Insightsの創業者兼チーフアナリストを務めるドニー・ベルコルツ氏は「ブラックボックスの中身が見えるのはMicrosoftと全く違う点だ」と説明する。こうした姿勢は、開発者がツールを信頼する一因になるという。
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