「6Gの正体」が見えてきた――オウル大学の研究が示す“無線通信の可能性”6Gの最前線で起きていること【後編】

フィンランドのオウル大学が中心となっている6Gの研究開発プロジェクトから、6Gの方向性が見えてくる。6G によって通信やアプリケーションの利用はどう変わるのか。

2024年08月15日 08時00分 公開
[Joe O’HalloranTechTarget]

 フィンランドのオウル大学が推進する「6G」(第6世代移動通信システム)に関する研究プログラムおよび産学連携の組織である「6G Flagship」では、6Gの技術だけでなく、6Gを生かしたアプリケーションやサービスについても研究が進められている。

 6G Flagshipのディレクター、マティ・ラトヴァ・アホ氏は、6G Flagshipについて次のように語る。「約100人の研究者が1つの学部で働き、無線通信から材料工学、機械学習のアルゴリズムなどのAI(人工知能)技術、アプリケーション、サービスまで、さまざまな分野を研究している」。同研究は、6Gによって何を実現しようとしているのか。

オウル大学の研究から見えてきた「6Gの正体」とは

 6G Flagshipには、以下のような戦略的研究分野がある。6G Flagshipは技術基盤を確立した後は、アプリケーションの開発に焦点を当てる計画だ。

  • 無線アクセス技術
    • ミリ波やテラヘルツ波といった周波数帯を扱うためのネットワークアーキテクチャやデバイス、回路技術
    • 速度や遅延を改善するための新技術
  • 分散型インテリジェント無線コンピューティング
    • 機械学習などのAI技術を効率的に分散して実行する方法や、デバイス間での協調動作を促進させてネットワーク全体の性能を向上させる技術
  • 持続可能な人間中心のサービスおよびアプリケーション
    • 遠隔医療やウェアラブルデバイスによる健康モニタリング
    • 拡張現実(AR)や仮想現実(VR)を用いたメディア体験など人間の生活を向上させるためのサービスや技術

 アホ氏は「特に無線接続が重要な分野だ」と述べる。6G Flagshipの目標を実現させるためには、無線信号の伝送方法や、ネットワークの機能、必要なデバイス、回路技術などについての研究を進める必要がある。

6Gで実現するサービス

 アホ氏は次のように強調する。「どこに住んでいても、裕福でなくても、全ての人に6Gの接続を提供する必要がある」。この考え方の下で、オウル大学の研究チームは、6Gを研究する際に以下のテーマを持っている。

  • ユビキタス接続(いつでもどこでも接続できること)
  • AIおよび通信システム
  • 統合センシングおよび通信(ISAC)
    • ISACは無線通信と複数のセンサーをシームレスにつなげることで、センシングをより高度にする概念

 オウル大学の研究チームは、健康と医療、エネルギー、セキュリティと防衛など、特定の産業分野での展開を目指して研究を進めている。防衛と医療はネットワークに信頼性と低レイテンシ(遅延)を特に求める分野であり、6Gでは5G以上にこれらの特性を強化する必要がある。

 アホ氏によれば、地方やへき地でも6Gが利用できるようになるには無線技術も重要だが、政治や経済、社会的な協調も必要だ。同氏は6Gのプライベートネットワーク「プライベート6G」(ローカル6G)について、教育施設、空港、病院などに周波数免許を許可するかどうかが検討事項の一つになると指摘する。

 オウル大学の研究チームと6G Flagshipは、6Gを利用したアプリケーションで社会全体が利益を享受できるようにすべきだと考えている。例えば、6Gを利用したアプリケーションによって医療費を削減できる可能性があるという。

 今後に期待が掛かる通信技術は6Gだけではない。無線LANの次世代規格「IEEE 802.11be」(Wi-Fi 7)も登場している。とはいえ、一般的なエンドユーザーは6GだろうとWi-Fi 7だろうと、どの接続方法を使用しているかは気にしない。

 アプリケーションの価値を高めるためには、「誰が」「どこで」「何をしているか」という情報が重要だ。ユーザーが工場や病院などどこにいるのか、その場所で何をしているかに応じて、必要とされる通信サービスやアプリケーションが変わる。人や場所、状況に応じて適切なアプリケーションを提供するには、さまざまな分野の企業が協力する必要がある。

 開発者はサービスの背景情報に焦点を当てる必要がある。空港やスポーツ会場、病院、家庭と、場所や状況に応じて異なる接続とアプリケーション必要になる。「サービスとネットワークアーキテクチャの進化はゆっくりとだが進行している」(アホ氏)

 機械学習を含むAI技術の分野では、オウル大学はネットワーク機能の最適化と、無線ネットワークの分散性を利用したAIアプリケーションの開発に取り組んでいる。AIアプリケーションをクラウドインフラで処理する場合、いかに動作にリアルタイム性を持たせるかが課題になる。同大学はデータの収集からAI処理までをリアルタイムで実行できる無線ネットワークとAI技術の研究を進めている。

Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術

米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

譁ー逹€繝帙Ρ繧、繝医�繝シ繝代�

事例 プログレス・ソフトウェア・ジャパン株式会社

予算を気にせずVLAN追加、「堅牢なトラフィック監視」を高コスパで実現する秘訣

IaaS仮想化ホスティングを提供するさくら情報システムでは、共有ネットワークのトラブルの原因特定が困難だった。同社は、ネットワーク異常検知を行えるソリューションを導入することで、その課題を解消したという。

事例 フォーティネットジャパン合同会社

運用コスト55%削減も可能? 事例に学ぶSD-WANの正しい選び方

ネットワーク環境の変化に伴い、SD-WANに移行する企業が増えている。しかし製品選定を誤ると、思ったような成果が挙がらないこともある。そこで、パフォーマンス向上やコスト削減などの成果を挙げた10社の事例から、選定のポイントを探る。

事例 ゾーホージャパン株式会社

ネットワーク管理業務を一元化、コストパフォーマンスの高いソフトウェアとは

ネットワーク管理業務は多岐にわたり、複数のツールを用いてネットワーク管理業務を行うのが一般的だ。岡山県立大学も同様の環境で、障害発生時の原因調査に手間や時間がかかることがあり、悩んでいた。同学はいかにこの課題を解消したか。

製品資料 ゾーホージャパン株式会社

ネットワーク監視ツール選びで迷わない、現場の口コミで分かった4つの必須要件

ITシステムの安定稼働が前提となった今、ネットワーク監視業務はより重要性を増している。効率化と安定化を両立するためには、ツール選びが重要だ。レビューサイトで多くのユーザーから評価を得た製品を、ユーザーの声とともに紹介する。

技術文書・技術解説 アマゾン ウェブ サービス ジャパン 合同会社

LoRaWANとクラウドによるIoTシステム構築、“子どもの見守り”を例に解説

低消費電力・長距離通信に対応するIoT向け無線通信規格であるLoRaWANは、各種産業やスマートシティーなどでの活用が期待されている。近年ではユニークなユースケースも登場しており、位置情報の共有もその1例として注目される。

アイティメディアからのお知らせ

From Informa TechTarget

なぜクラウド全盛の今「メインフレーム」が再び脚光を浴びるのか

なぜクラウド全盛の今「メインフレーム」が再び脚光を浴びるのか
メインフレームを支える人材の高齢化が進み、企業の基幹IT運用に大きなリスクが迫っている。一方で、メインフレームは再評価の時を迎えている。

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...