IT業界ではレイオフが相次ぐ中で、明らかになってきたのは人員削減の理由が必ずしも業績不振ではないことだ。企業はその本当の理由を公にしようとしていない。それはなぜなのか。
IT業界で、大規模なレイオフ(一時解雇)が相次いでいる。その理由として企業が挙げるのは、必ずしも業績不振ではない。Cisco SystemsやMeta Platforms、Amazon.comといった大手企業も例外ではなく、“ある理由”から人員削減を進めている。一方で企業は、その事情を公に認めることを避けている。背景に何があるのか。
ニューヨーク大学スターンスクールオブビジネス(New York University Stern School of Business)でマーケティング学の教授を務めるスコット・ギャロウェー氏は、米国のIT企業について以下のように分析する。2022年のレイオフには、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)下で企業が過剰に人材を雇用したという正当な理由があった。だが企業の業績が回復した2024年に、2022年と同じ原因でレイオフが起こっているとは言い難い。
「これはIT業界に限ったことではない」とギャロウェー氏は付け加える。経済全体では雇用増加と失業率低下の傾向があるものの、企業は引き続き従業員を解雇していると同氏はみる。2024年1月の雇用状況に関する米労働省の統計では、失業率がマイナス4%を下回った期間が2年続いており、これは過去50年で最長となった。運送会社United Parcel Service(UPS)、ヘルスケア企業CVS Health、玩具メーカーHasbroといった企業が、2023年から2024年にかけて1000人を上回る規模のレイオフを発表した。
ギャロウェー氏が言うには、「企業のCEOが認めたくないほど」AI技術はレイオフの原因になっている。一方でCEOは、「利益を減少させずに人員削減ができたのはAI技術のおかげ」であることを、決算報告で明言したがっていないと同氏は考える。
「現時点でCEOは、AI技術の普及に関する雇用不安から、この背景を少なくとも表向きには語ろうとしていない」とギャロウェー氏は話す。IT企業がAI技術の功績を表立てずに人員削減を進めている状況を、同氏は「手品」に例える。IT企業がひそかに従業員をAI技術に置き換えている一方で、無駄を削減している状況を取り上げるようメディアを仕向けている。これは手品師がシルクハットにウサギを仕込んでいる間、観客によそ見をさせるようなものだ、というのだ。
一方でギャロウェー氏は、これから数四半期後には、CEOが決算報告で「当社はAI技術の力によって会社の規模を縮小しながら、より多くのビジネスを手掛けることを目指す」と単刀直入に話すようになると見込む。「その動きに対して評論家は、株式が急騰するまで保身に走ることが予想される」とも同氏は語る。その後、「従業員からAI技術への置き換え」が誰の目にも明らかになるという見立てだ。
「だが雇用の減少は全体像の一部に過ぎず、物事は業務の補完を中心に動く」とギャロウェー氏は言う。例えば企業でコピーライターとして働いているメアリーは、職を失うのではなく、AIツールのトレーニングを受けるようになるというのが同氏の見解だ。そのAIツールは、初稿を生成したり、承認済みの広告文に基づいてカタログやWebサイト、ソーシャルメディア用に広告文を変換したり、その他のタスクの能率化を図ったりする。「そしてメアリーの上司は、これまでと同じ時間で3倍の広告文を作成することを彼女に期待するようになる」と同氏は付け加える。
AI技術を導入することによって、企業は追加人員の雇用に頭を抱えることなく、新しいイニシアチブや分野に取り組めるようになる。この状況は、誰も仕事を見つけられないというディストピア(暗黒世界)に対する懸念を引き起こしかねない。だがギャロウェー氏は、AI技術が巨大企業に対抗できる戦力をもたらす可能性にも着目する。AI技術によって企業は新たなビジネスチャンスをつかむ可能性があり、そこから新たな雇用が生まれると同氏は展望する。
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