“クラウドコストの負担”から解放される「ゼロベース予算」の長所と短所ゼロから考えるクラウド予算【後編】

IT部門やクラウドチームは、物事をゼロから考える「ゼロベース」のアプローチによって従来のコスト削減を重視する予算管理から脱却できる可能性がある。ゼロベースの予算管理のメリットとデメリットを解説する。

2024年12月19日 05時00分 公開
[Everett BishopTechTarget]

 企業のIT部門やクラウドチームは、「コストが掛かる存在だ」と社内で見なされることがある。そのためIT部門やクラウドチームも予算管理において、コスト削減を重視する傾向にある。予算をゼロベース(物事をゼロの状態から検討すること)で管理する考え方によって、こうした状況を打破できる可能性がある。ゼロベースの予算管理のメリットとデメリットを紹介する。

ゼロベースの予算管理のメリットとデメリットとは

ゼロベースの予算管理の長所

 ITチームは、自社に価値をもたらすクラウドサービスに費用を投じたいと考えている。金融コンサルティング企業Paroは、ゼロベースの予算管理の主なメリットとして以下を挙げている。

  • 支出の全体像を把握できる
    • どの費用がどの程度の金額かを詳細に把握できるため、無駄な支出を削減しやすくなる
    • クラウドチームは費用を精査することで、クラウドサービス関連の費用が他のチームや部門とどのように関連しているかを理解できる
  • 先例への依存度が低くなる
    • ゼロベースのアプローチでは特定の費用項目が予算に含まれる理由と、それらがどのように価値をもたらすかを説明することが各担当者やチームに求められる
    • ゼロベースの予算管理の目的は前年度の予算と比較することではないため、前年度の費用に関するデータを収集するとゼロベースの予算管理の意義を失うことになる
  • 部門間のコミュニケーションを促進する
    • 同じ組織に所属する部門では重複費用が発生する可能性がある
    • 部門の垣根を越えた共同作業は予算の策定に役立つだけでなく、仕事上の関係改善にもつながる
  • キャッシュフローを可視化できる
    • 個々の支出を精査することで、クラウドチームはキャッシュフローに対する洞察を得られる
  • 予算の調整を図れる
    • ゼロベースの予算管理では、個々の費用を正当化する必要があるため、企業の予算を自社の戦略的目標と連動させるのに役立つ
    • クラウドチームはクラウドサービス関連の費用がより大きな価値を生み出すのにどのように貢献するかを判断できる

ゼロベースの予算管理の短所

 ゼロベースの予算管理のアプローチが全ての企業に適しているとは限らない。Paroはゼロベースの予算管理に付随する課題として以下のようなものを挙げている。

  • 過去に対する注目度が低い
    • 従来型予算管理では前年度の予算サイクルの費用を新しい費用や現在の費用と比較する
    • ゼロベースの予算管理では必要な費用を決めることではなく、正当化することがチームに求められる。
  • 追加の労力を要する
    • ゼロベースの予算管理では新しい予算の策定時に前年度のデータに頼れないため、予算策定の負担が増加する可能性がある
    • 費用項目を一つずつ洗い出し、その必要性については客観的な視点で合理的に説明する責任がある
  • 時間的制約がある
    • 従来型の予算管理を経験したことがあれば、予算管理が時間の掛かる作業だと分かるだろう
    • 予算管理のプロセスの範囲を拡大して費用項目の審議を含めることは、既に厳しいプロジェクトに時間不足という要素を追加することになりかねない
  • 従業員のスキル不足
    • クラウドチームは財務チームと共同で作業するかもしれないが、財務チームがクラウドサービスについて詳しいとは限らない
    • 逆に財務チーム以外のメンバーは財務についての知識やスキルを持っていない可能性がある

ゼロベースのアプローチは現実的な選択肢か

 ゼロベースの予算管理は全ての企業に適しているとは限らない。

 調査会社Amalgam InsightsでCEO兼プリンシパルアナリストを務めるヒョン・パーク氏は「ゼロベースの予算管理は優れたアプローチだ」と述べた。その上で「だが、現実問題として、社内の個々の支出と費用を考察して、それぞれの意義と妥当性を特定する作業は容易でない」と語る

 「急成長を遂げている企業、安定した収入源を持たない非営利団体や公共部門の機関がゼロベースの予算管理のアプローチを採用するのは難しい」(パーク氏)

 「ゼロベースの予算管理プロセスは多国籍企業には不向きである場合もある」とM&A(合併と買収)支援サービスを提供するBeyond M&Aの元最高財務責任者(CFO)で現在は同社の戦略策定と価値創生のパートナーを務めるサイモン・ラトクリフ氏は話す。

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