Windows Vista開発は「人月の神話」を超えられるか?IT変革力【第24回】

 遅れているWindows Vistaの開発。開発規模が大きくなって、いわゆる「人月の神話」に陥っているのではという見方も出ていますが、このなかなか解決できない根本的問題と対比した、マイクロソフト社の試みに注目してみました。

2006年11月08日 00時00分 公開
[TechTarget]

 マイクロソフトの次期OSであるWindows Vistaの開発が遅れています。当初予定よりずれ込み、2007年1月発売予定と言われています。さらにWindows Vistaの開発遅延に関してはソフトウェア工学上の「『人月の神話』に陥っているのではないか」と言う見方が各方面から出ています。そこで今回は「人月の神話」と言うITシステム開発のハードルの問題を取り上げます。

幻のIBM360の開発で発見された理論

 ITシステムに関する読むべき古典を挙げろと言われれば、筆者は真っ先に1970年代に書かれたフレデリック・P・ブルックス,Jr(Frederick P. Brooks, Jr.)による「人月の神話」を挙げると思います。この書籍の著者は現在、神代の昔の名作と言われる名機IBM360のオペレーティング・システムの開発プロジェクト・マネージャーでした。IBM360と言えば米国のIBM社が当時のライバル・ユニバック社(現ユニシス社)を抜き去り、世界市場を席巻し始めた頃の最初の大型汎用コンピュータです。今で言うレガシー・システムのもっとも初期のプロダクトでした。

 「人月の神話」が世に出た1970年代当時のITシステム開発プロセスは、現状分析、概要設計、基本設計、詳細設計、プログラム開発、テスト、移行といった段階に分かれていました。これをウォーターフォール型開発と称していました。いずれにしても本書は、現代にも有効なソフトウェア工学上の名著と言われています。

開発要員は交換可能な人月ではない

 「人月の神話」は開発プロジェクトの失敗を(1)見積もりの不十分さ、(2)人月が交換可能という神話、(3)マネージャーのなさと頑迷さ、(4)ずさんなスケジュール管理などとしています。

 とりわけ重要なのは、(2)の「人月が交換可能という神話」です。分かりやすく言えば「開発要員を規模の増大に応じてどんどん追加したり、簡単に交換可能できると考えるのは幻想だ」というわけです。だから規模が大きなITシステム開発は失敗するリスクが幾何級数的に高くなると主張されました。

 それは一体、なぜでしょうか。ブルックスはその原因として開発要員間のコミュニケーション量に注目しました。皆さんは平面上に無数の点がある場合、任意の二点を結ぶ線分の数はN・(N-1)/2であると言う方程式をご存知ですね。この場合、点の数が開発要員数、線分の数が求められるコミュニケーション量に相当します。

 分かりやすく言えば、ITシステムの開発工数規模が大きくなればなるほど、つまり開発要員の数が増えれば増えるほど開発者相互間のコミュニケーション量は飛躍的に増加し、開発のリスクが高まるという意味です。

 こうなれば個々のモジュールの開発要員を簡単に取り替えたり、増やしたりできなくなります。人月と言う人手をいくらでも増やしたり、交換できるのは、「相互のコミュニケーションが必要ない仕事だけだ」と言うわけですね。そして「狼人間を撃つ銀の弾は無い」と言うサブタイトルが「人月の神話」には付いています。そして彼は「人月の神話」は「いかなる方法論も有効でない、手の打ちようがないITシステム固有の開発病だ」といった意味の主張をしました。

 これは当時、非常に新しいコンセプトであり、あまりに当時の状況を的確に言い当てていたため「人月の神話」はIT業界において一大センセーションを巻き起こしました。筆者も本書に感激したのを鮮明に覚えています。

 この「人月の神話」は、「特定の技術なり、技法なりではこの問題は解決できない」という神話をIT業界に残しました。このおかげで高年齢のシステム技術者は古いレガシー・システムのお守だけで存在意義を主張でき、多くのソフトウェア企業は、競争原理を排除する「随意契約の必要性」を主張し、一種の系列取引を確立して長い間、黒字を維持してきたと考えられます。「人月の神話」を逆手にとって大いに儲けてきたわけですね。

 ソフトウェア工学上の未解決問題が、古いシステム技術者を養い、長らくソフトウェア業界を潤してきました。ウォーターフォール型開発から一定程度脱却したと言われるオープン・システム開発でも、「人月の神話」の根本問題は解決されませんでした。

「人月の神話」はマイクロソフトの次期OSのWindows Vista開発にも当てはまるのか

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