無線LANの次世代規格Wi-Fi 7に準拠する製品が早くも市場に出てきた。しかし、だからといって企業や消費者が無線LAN新製品に飛び付くわけではない。
無線LANの次世代規格「IEEE 802.11be」(Wi-Fi 7)に準拠した製品の開発と導入を巡る議論が活発化している。そうした中で、ほとんどの企業が無線LANの製品を購入する際に検討しているのは、「IEEE 802.11ax」(Wi-Fi 6)や、その拡張版で6GHzの周波数帯を利用できる「Wi-Fi 6E」に準拠した製品だ。
IEEE(米国電気電子学会)は、次世代無線LAN規格であるIEEE 802.11beをまだ承認していない。計画では、IEEEは2024年5月にこの新規格を承認する。一方でベンダーは、IEEE 802.11be標準化前の仕様に基づくWi-Fi 7のチップセット(集積回路の集まり)を製品に実装している。
無線LAN規格のアップグレードの関心は、業界専門家や企業の間でまちまちだ。無線LAN規格の改訂が次々に起きる中で、企業は最新の無線LAN規格を導入するのか。それとも当分は見送りになるのか。
調査会社Dell'Oro Groupによると、2023年第3四半期(7〜9月期)に出荷された無線LAN製品のうち、Wi-Fi 6E準拠製品は約10%にとどまった。一部の無線LANベンダーはWi-Fi 7関連製品の売り上げを計上したが、売り上げ全体からするとわずかな額だった。
一方、無線LANの業界団体Wireless Broadband Alliance(WBA)は、2023年11月に調査報告書「WBA Annual Industry Report 2024」を発表した。同調査報告書によれば、196人の回答者の41%が、無線に関する次の投資として、Wi-Fi 6またはWi-Fi 6Eの導入を計画している。
WBAのCEOティアゴ・ロドリゲス氏によると、企業におけるデジタル化の取り組みが、Wi-Fi 6やWi-Fi 6E導入の原動力となっている。この取り組みは、クラウドコンピューティング、AI(人工知能)技術、テレワークといった分野の進化も後押ししている。
「競争力を強化したい企業は、デジタル化を進めてより良い意思決定をするために、より多くのデータを収集する必要があり、そのために通信を使用する」と、ロドリゲス氏は説明する。その結果、無線LAN設備の更新が活発化しているため、無線LANのアクセスポイント(AP)を販売するベンダーは需要の増加を享受している。
WBAのレポートによると、無線LANはさまざまな業種の企業が取り組むデジタル化を支えるものだ。ロドリゲス氏は、企業はWi-Fi 7の導入に関しては、3つのグループに分かれるだろうと指摘する。
1つ目のグループは、最新の技術進歩を追い求め、Wi-Fi 7をすぐに導入する。このグループには自動車メーカーや建設会社などが含まれる。
2つ目のグループは最新技術には目もくれず、用途に応じて無線LAN規格を選択する。例えばIoT(モノのインターネット)用のセンサーであれば、「IEEE 802.11g」(Wi-Fi 3)か「IEEE 802.11n」(Wi-Fi 4)で十分だ。
3つ目のグループは、3〜6年の定期的なサイクルに従って無線LAN製品を入れ替える。このグループに属する企業が、3グループの中で最も多くなると考えられる。一例としてロドリゲス氏は、スタジアムを挙げる。「ネットワークの刷新に莫大(ばくだい)な投資が必要になるので新しい規格が登場するたびに更改するのは現実的ではない」(ロドリゲス氏)
後編では無線LANの専門家がWi-Fi 7に抱いている不満を解説する。
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