光無線通信には他の通信方式にないメリットと対照的な制限やデメリットもある。光無線通信が通信できる範囲の制限といった複数の項目を解説する。
光を使ってデータを通信する「光無線通信」(Optical Wireless Communication、以下、OWC)の利用が広がりつつある。無線LAN(Wi-Fi)のような無線周波数(RF)を利用した通信に比べてセキュリティ性が高く、利用できる帯域幅が広いといったメリットがある。
OWCにはメリットもあるが、デメリットや制限もある。7つの観点で、OWCのデメリットや制限を解説する。
目と皮膚の安全のため、OWCシステムで利用できる最大許容送信電力は制限されている。送信機と受信機が同一の部屋内にあれば問題はないが、可視光線(VLC)と赤外線(IR)は固体を透過できないので、壁で仕切られた別の部屋にはデータを送信できない。このように、OWCの通信範囲は施設の物理的な構成に左右される。屋外や巨大な部屋やホールといった施設では、あまり有効ではない。
OWCによる通信を継続するには、送信機と受信機間で遮蔽(しゃへい)物がない状態である「見通し」(LOS:Line of Sight)の維持が求められる。
送信機と受信機が適切な位置から外れている場合、データ損失が発生する。こうしたリスクは、施設内の複数のクライアントデバイスが、移動していたり、配置換えをしたりして、位置合わせを維持できない環境で発生する可能性がある。
この課題に対処するため、送信機は天井に取り付けられることが多い。放射状に光信号を発振し、受信機との見通しを確保する。ただしこの構成では、壁やその他の物体表面からの反射が信号を劣化させるマルチパス干渉が発生する可能性がある。
壁や天井、家具など、光信号が透過できない物体がクライアントデバイスを遮蔽したり影を作ったりする。これは送信機からの複数のビームがそれぞれ異なる経路(パス)を通って受信機に到達するマルチパス干渉を引き起こす。マルチパスでは、光信号の一部が最短経路をたどり、残りは何かに反射しつつ移動する。結果、光信号が受信機に到達するタイミングに時間差が生じ、伝搬遅延が生じる。マルチパス干渉はノイズの一種である符号間干渉(ISI)を招く。
前述のように、OWCシステムではEMIは発生しにくい。ただし、EMIに似た現象として、ISIが発生する可能性がある。ISIは、マルチパス干渉や信号の遅延により、1つのシンボル(信号の単位)が連続するシンボルと重なる場合に発生する。この重なりにより、受信時の光信号の品質が低下する。設計やビームの指向性を調整することで、ISIを軽減できる。
OWC受信機は、一般的に自然光やさまざまな人口の光源などの影響を受ける。これはショットノイズもしくは光ノイズとして知られている。さらに、温度や気圧のような環境条件によっても、以下のような現象が光波に起きる可能性がある。
このような現象が発生すると光信号の振幅や位相、強度に影響を与え、データのエラーが増加する可能性がある。したがって、屋外用のOWCシステムは、天候が頻繁に変化する地域での使用にはあまり適していない。
光学デバイスの限界により、OWCにはノイズやパフォーマンスの問題が発生しやすい。例えば、フォトディテクター(光検出器)に使われるLEDやレーザーダイオードは温度変化に弱く、耐用年数も限られる。
光無線技術「Li-Fi」では光源にLEDを使用する。LEDは、反射して戻ってきた光やほこり、汚れの影響を受けやすい。受信機で光センサーの役割を果たすフォトダイオードは、暗電流(光が入射していない状態で発生する電流)と静電容量(絶縁時に蓄えられる電力容量)が生じるという特性がある。これらの特性は、光信号の品質と通信の品質を低下させる可能性がある。
OWCデバイスのメンテナンスコストは、光ファイバーよりも高くなる可能性がある。LEDやレーザーダイオードの平均耐用年数は通常2〜5年だが、光ファイバーケーブルの耐用年数は屋外であれば20年、地下では28年が目安とされている。
OWCでは、3〜4年ごとのメンテナンスと部品や機器の交換が必要になる可能性がある。そのため、頻繁なメンテナンスと交換が一般的な、車載ネットワーク、交通信号機、IoT(モノのインターネット)に適している。
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