企業が用意している通信環境は、モバイル端末の技術的進化やユーザーニーズに対応しきれていないとユニファイドコミュニケーションの専門家は語る。
企業の従業員は、タブレットやスマートフォンを使ってコラボレーション(多人数で行う共同作業)をしたいと考えている。しかし、IT部門が企業データセンターのオンプレミスサーバでモバイルコラボレーションアプリケーションをサポートするのを待っているわけではない。企業のシステム環境では、デバイス分野のダイナミックな進化や、モバイルコラボレーションにおける1秒以下の遅延という要件に対応する態勢が整わないからだ。これは、ユニファイドコミュニケーション(UC)の専門家がモビリティを提供するには、クラウドで懸念される問題点に対処しながら、クラウドを活用しなければならないことを意味する──ある業界アナリストがこのような見解を示している。
「オンプレミスサーバでモバイルコラボレーションをサポートする場合、高速なWANを構築し、高度なエッジキャッシングを実現して、膨大なレプリケーションを実行していけばよい。しかし実際には、そこまでしている企業はない」と、米Forrester Researchの副社長兼主席アナリストのテッド・シャドラー氏は語った。同氏は最近、調査リポート「Mobilize Your Collaboration Strategy」(コラボレーション戦略のモバイル化)を発表している。「モバイルコラボレーションのサポートは、クラウドサプライヤーが強みを持っている領域だ」
仕事に使われているスマートフォンの約5割、iPadの7割は、従業員が個人的に購入したものだ。同リポートによると、こうしたユーザーはモバイルコラボレーションアプリのパフォーマンスに関しては、「応答が瞬時でなければ許容しない」という。
コラボレーションやUCの専門家の間では、クラウドベースのUCについて意見が分かれている。リソースが不足している中小企業はクラウド型UCを受け入れているが、大企業は依然として、その信頼性や機能の充実度について懐疑的だ。しかし、モビリティに関する要求が、この状況を変えることになるとシャドラー氏は語った。
「モバイルコラボレーションは、クラウドコンピューティングが興味深く、有意義で、必要不可欠なものになる分野の1つだろう」と同氏。「クラウドは、どこででも仕事をするワーカーに最適なアーキテクチャだ」
シャドラー氏はリポートで、8つのモバイルコラボレーションサービスを取り上げている。その内訳は、電子メール、カレンダー、ドキュメントベースのコラボレーション、Web会議、アクティビティストリーム、プレゼンス/IM、ソーシャルコラボレーション、専門家の探索・発見、ビデオ会議だ。これらのほとんどでは、1秒以上の遅延は許されない。従来のオンプレミスのクライアント/サーバモデルでは、3GやパブリックWi-Fiネットワーク経由でリアルタイムコラボレーションを行うモバイルユーザーに、そうした遅延の短さを保証できないとシャドラー氏は指摘した。
「例えば、モバイルデバイスでWeb会議のためにファイルを入手しようとしているときや、ソーシャルプロフィールを検索しているときには、遅延は大きな問題になる。待たずに済むようにしなくてはならない」と同氏。「このため、従業員がIT部門によるオンプレミス方式でのモバイルコラボレーション対応を当てにしないというのが大きな流れになっている。彼らは、自分が選んだコンシューマー向けサービスを使って仕事をしている」
また、ユーザーは、モバイルコラボレーションアプリが頻繁に改良されるとともに、メーカーやOS、フォームファクターを問わず、どんなデバイスでも使えるように更新されていくことを期待していると、シャドラー氏は語った。オンプレミス方式では、ユーザーが望むペースでこうした改良や更新を行うことはできないと同氏は指摘する。
「SharePointやExchange、Lotus Connectionsをインストールすると、アップグレードは3〜5年ごとにしか行わないことになる。これでは、モバイルワーカーの要求には到底追付かない」とシャドラー氏。「モバイルプラットフォームは急速に変化している。システムをアップグレードしてそれらのプラットフォームに対応していくためのリソースを持ち、そうしていく意思があるのはクラウドプロバイダーだけだ」
クラウドコラボレーションの分野は進化を続けており、既に多様なベンダーが手掛けている。具体的には、既存のUCベンダー(米Cisco Systemsや米IBM)、大手クラウドベンダー(米Google、米salesforce.com)、ニッチな新興ベンダー(米Evernote、米Dropbox、米SugarSync)などが挙げられるとシャドラー氏は語った。
ビデオ会議ベンダーの米Logitech LifeSizeは7月、クラウド型ビデオ会議サービス「LifeSize Connections」と、イタリアのモバイルビデオ会議ベンダーであるMirialの買収を発表し、この分野に参入した。米Polycomも7月、同社の技術を採用するパートナーによるクラウド型コラボレーションサービスのリリースを発表した。だが、Logitech LifeSizeもPolycomも、クラウドベースのモバイルビデオ会議サービスを提供するとは明言しなかった。
LifeSizeは、当初はConnectionsをデスクトップと会議室のエンドポイントでサポートするが、Mirialの技術を利用してクラウド型モバイルビデオ会議サービスを立ち上げる計画だと、LifeSizeのプロダクトマーケティング担当副社長、マイケル・ヘルムブレクト氏は取材に対して語った。
「クラウドモデルは、オンプレミスモデルよりはるかにシンプルで簡単だ」とヘルムブレクト氏。「トレードオフもある。企業がクラウド上のシステムを利用する場合、一定の管理をクラウドに委ねることになる。だが、ユーザーが思い思いの方法でコラボレーションを行えるこうしたソリューションは、基本的に企業にとって大きな資産になると思う」
しかし、クラウドコラボレーションサービスを提供しているベンダーも含めて、全てのベンダーが「パブリッククラウドサービスこそが、モバイルコラボレーションを実現する唯一の方法」と考えているわけではない。多くのUC専門家から見て、リスクがメリットを依然として上回っていると、IBMのUCおよびコラボレーション担当ディレクター、ケーレブ・バーロー氏は語った。同社は「LotusLive Mobile」でオンラインミーティングと電子メールしかサポートしていない。
「一般的なクラウドは、コンプライアンスやセキュリティ、バックエンドアプリケーション統合に関する企業のニーズを満たさない」とバーロー氏。「IBMの現在の考え方は、プライベートクラウドが目指すべき方向かもしれないというものだ。われわれはこの分野で実験を進めている」
Ciscoは「WebEx」に加え、パートナーがCiscoのコラボレーションアプリケーションを提供することを可能にする「Hosted Collaboration Solution」により、クラウド型モバイルコラボレーションをサポートしている。だが同社も「モビリティとオンプレミスコラボレーションプラットフォームは相いれない」という見方に懐疑的だ。
「今後は、クラウドとオンプレミスを組み合わせた展開モデルの採用が広がるだろう」と、Ciscoのコラボレーションソリューションマーケティング担当シニアマネジャー、マイク・フラテシ氏は語った。「われわれの顧客の中には、エンタープライズテレフォニーサーバに直接接続するわれわれのモバイルソフトフォンソリューションと、WebExアプリケーションのモバイル版を同じデバイスで使っている企業がある。彼らは、会議をするときはクラウド上のモバイルWebExアプリケーションにアクセスし、通話するときやボイスメールを利用するときはオンプレミスソリューションを使っているわけだ」
クラウド型モバイルコラボレーションへの移行は、すぐには進まないだろうし、容易なことではないだろうが、避けては通れないと、Forresterのシャドラー氏は強調した。移行に否定的なコラボレーションの専門家は、ユーザーにほとんど見放されたオンプレミスプラットフォームの保守に、時間と費用を浪費する羽目になるかもしれないと同氏は述べた。
「IT部門は、クラウド型モバイルコラボレーションサービスの採用に積極的とはいえない。だが、ビジネスユーザーが既にこうしたサービスを使っているのは確かだ。彼らは、IT部門がコラボレーションシステムをiPadで使えるようにするのを待ってはいないのだ」とシャドラー氏。「オンプレミスプラットフォームの問題点を解決することは可能かもしれないが、そのためには多大な費用が掛かる。それに、適切に解決しないとユーザーはがっかりして、代わりの選択肢を探すだろう」
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