キラーアプリはタッチ版「Microsoft Office」、WindowsタブレットのiPad超えは可能か「Windows 8.1 Update」登場で使い勝手が改善

「Windows 8.1 Update」の登場で使い勝手が向上したといわれる「Windows 8.1」。しかし、先行する「iPad」などに追い付くにはタブレットで利用できるタッチ版の「Microsoft Office」が求められる。

2014年05月09日 12時00分 公開
[Diana Hwang,TechTarget]

 米Microsoftの「Windows 8.1 Update」によって、同OSの使い勝手は恐らく改善された。だがWindows 8.1 Updateの新機能が、企業のIT部門にWindows 8.1タブレットの導入を促すほど十分に魅力的かどうかについては、まだ定かではない。

 大半のIT部門は、Windows 8タブレットを導入するどころか、まだWindows 8もサポートしていない。IT管理者はWindows 8の複雑なユーザーインタフェース(UI)や、業務に役立つWindows 8対応アプリケーションがないことに不満を抱いている。

 米TechTargetの読者フォーラムでも、IT業界の読者から幾つかWindows 8の課題が指摘されており、「Windows 8はユーザーの学習曲線の傾きが大きい」との指摘や「デバイスドライバのアップグレードとインストールに苦労した」などの声も挙がっている。

Windows 8に移行するメリットは?

 米ITサービスプロバイダーMCPcのモバイル&エンドユーザーコンピューティング担当最高技術責任者、アイラ・グロスマン氏は次のように語る。「企業には依然として、Windows 8に対する抵抗がある。企業のIT担当者は、Windows 7への移行を済ませたばかりの可能性もある。そのようなときに果たして、エンドユーザーにWindows 8のトレーニングを施す気力が残っているだろうか。アプリケーションをライブタイルに設定しているわけでもなく、まだ通常のスタート環境を使っているのであれば、Windows 8に移行するメリットは特にないのだから」

Windows 8.1タブレットの市場はできるのか?

 米Appleの「iPad」とAndroid搭載端末が優勢なタブレット市場において、Windows 8タブレットにはこの先も企業による採用をめぐる困難な戦いが待ち受けている。だがMicrosoftや米Dell、中国Lenovoなどのベンダーは、これまでMicrosoft製品に依存してきた企業がいずれWindows 8.1タブレットを導入することになると期待している。各社とも、今後はタッチ対応のネイティブなアプリケーションが増え、ハードウェアの低価格化と高速化と軽量化が進み、バッテリー持続時間が長くなると予想している。

 「企業においてタブレットが補助的なデバイスとなっていることは明らかだ。Windows 8はひどいタブレットOSではない。ひどいのはデスクトップモードに戻した場合だけだ」と、米調査会社TECHnalysis Researchの創業者で主席アナリストのボブ・オドネル氏は指摘する。

 実際、2-in-1型(1台で2つの使い方ができる)タブレットのようにキーボードを搭載する端末か、あるいはIT部門が追加でキーボードやドッキングステーションを供給するのでない限り、企業がデスクトップのリプレースとしてWindows 8.1タブレットを導入する可能性は極めて低い。2-in-1型デバイスには着脱可能なキーボードが付属しており、合体すればノートPCのように使え、単独ではタブレットとして使える。

 「既にiOSやAndroidベースの製品が定着している現状では、そもそもWindows 8を試してもらうこと自体が難しい。Windows 8.1 Updateの投入でこの状況が変わるかどうか、私には確信がない」と、米調査会社IDCのデバイス&ディスプレー担当プログラム副社長、トム・マイネッリ氏は指摘する。

 IDCは先頃、タブレットの市場が成熟し、平均販売価格の低下が予想されることを理由に、2014年の世界のタブレット出荷台数の予想を3.6%引き下げ、前年比成長率の見通しを19.4%としている。

 IDCは2-in-1型タブレットが徐々に浸透すると予想している。だが、Windows 8タブレットを確実に普及させるためには、タッチ操作を前提とした“タッチファースト”のWindows 8アプリケーションの存在が決定的に欠けている。

 「問題は、Microsoft OfficeがまだModern UI対応のアプリケーションではないことだ」と、マイネッリ氏は指摘する。「OfficeはユーザーにWindowsタブレットを選んでもらうための重要な要素だが、現状ではまだ、Windowsタブレットで利用するにはデスクトップモードに切り替えてもらう必要がある。ユーザビリティは優れている。だが、キラーアプリがタッチスクリーン向けに最適化されていない」と、同氏は続ける。

望みはあるか?

 Windows 8タブレットの採用ペースは鈍いが、教育や医療分野などの垂直市場も含め、さまざまな業界が特定用途向けにタブレットの導入をテストまたは開始している。

 「企業がWindows 8を検討するとすれば、それはタッチ対応の端末を導入したいからだ」と、前出MCPcのグロスマン氏は語る。「だがソフトウェアの状況に目を向けると、タッチ機能を活用しているアプリケーションはあまりない。タッチ機能は割高ということになる」と、同氏は続ける。

 IT管理者の意見は、「Windows 8タブレットの導入は何かしら具体的なニーズで正当化する必要がある」との考えで一致しているようだ。

 米アラスカ州の公益事業会社でIT担当ディレクターを務め、米TechTargetにも寄稿しているマット・コシュト氏は次のように語る。「Windows 7を使い続けるのでなく、Windows 9を待つのでもなく、Windows 8.1に移行するのには、それなりに理由がある。多くのユーザーがタッチスクリーン端末を所有する環境において、そうした端末を活用するにはWindows 8.1が必要だ。恐らくニッチではあるが、企業でのユースケースは存在している」

 iOSやAndroidベースのタブレットではBYOD(私物端末の業務利用)のシナリオが一般的だが、Windows 8タブレットに関しては、こうした形で企業による採用が進む可能性の方が高いだろう。

 「当社の従業員の間では、タッチ対応デバイスの需要が高まっている」。そう語るのは、ディーラー向けの中古車販売オークション業者、米Manheimで技術エンジニアリング担当マネジャーを務めるブライアン・スコット氏だ。「当社は目下、Windows 8とWindows 8.1のタブレットを年内に一部のユーザーに展開しようと計画中だ。今後もWindows 7からの移行とアップグレードプロセスを前進させ、再イメージング(1つの基本イメージから複数のデバイスにソフトウェアをコピー)を進めていく」と、同氏は続ける。

 Manheimは各地のオークション会場の検査員約1000人にタブレットを配備し、車両検査用カスタムアプリを利用できるようにする計画だ。

 スコット氏によれば、一部のユーザーからはオフィスアプリケーション用にタッチ対応デバイスを望む声もあるという。ただし同氏は、「タッチ非対応のデバイスにはWindows 8は導入しない」と語っている。

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