2015年、ネットワーク分野における企業の投資動向はどうなっていくのか。IT戦略の意思決定者を対象にIT投資の実態を毎年調査しているITRの担当アナリストに聞いた。
IT分野のリサーチとコンサルティングサービスを手掛けるアイ・ティ・アール(以下、ITR)では毎年12月、国内企業の情報システム部門と経営企画部門の役職者を対象に、IT投資にまつわるアンケート調査を実施。その分析結果を300ページ超のリポートにまとめて発行している。最新版となる『国内IT投資動向調査2015』が示した大きな傾向は「IT投資の成長率鈍化」と「“守り”重視の投資マインド」だ。本稿では同調査の概要を踏まえつつ、ネットワーク分野の動向について見ていきたい。
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今回の調査で有効回答数を得た1095社のうち、2014年度のIT予算が増加(「20%以上の増加」および「20%未満の増加」の合計)すると回答した企業は23.1%。前年度(31.7%)を大きく下回った。一方で減少(「20%以上の減少」および「20%未満の減少」の合計)すると回答した企業は11.5%で、こちらもやはり前年度(14.7%)を下回る。「横ばい」と回答した企業は65.4%だった。全体として投資意欲は微増を続けてはいるものの「模様眺めの様相が濃い1年」(ITR シニア・アナリスト 舘野真人氏)であり、20%以上の投資増をもくろむ企業は年々減っているという。2015年度の見通しでは、IT予算が増加すると回答した企業は21.6%とさらに減り、逆に減少するという回答は12.8%と微増している。
同調査が始まった2001年からのIT投資増減指数(20%以上の減少をマイナス20、横ばいを0、20%未満の増加をプラス10などとして積み上げて回答数で除した値)の推移を見ると、2013年度は2.10とリーマンショック以前の水準まで回復したが、2014年度は1.46。2015年度予想は0.97となっている。辛うじてプラスの水準は保ちつつも再び低成長の時代に戻ってしまった感は否めない。なお、2015年度予想を業種別で見ると「建設」「情報通信」を除いてあらゆる業種でIT投資増減指数が低下しており、「サービス」に至ってはマイナス0.10と、マイナス成長を見込んでいる。
同調査ではIT投資を「戦略投資(新規システム構築や大規模リプレース)」と「定常費用(既存システムの維持や若干の機能拡張)」に分け、その割合を聞いている。2014年度の戦略投資比率は34.2%で、過去最低であった前年より上回ってはいるものの、長期的には低下が続いているという。また、IT投資の目的として「ITインフラ整備」「業務効率向上・コスト削減」といった11の項目を挙げて、それぞれ「攻め/守り」のいずれに近いかとその重要度を問うた。その結果、半数以上の回答者が「攻め」と認識する項目はわずか3項目にとどまり、しかも重要度が高いグループにはその3項目のうち1つも入っていない。
実際にIT予算の中身を見ても、リスク対策費用(情報セキュリティ対策費用、災害対策費用、IT内部統制向け費用)の割合がいずれも前年度を上回り、情報セキュリティ対策費用と災害対策費用については過去最高となるなど、守り重視の傾向が如実に表れているようだ。
製品別の投資動向では、比較的投資意欲の高い分野に位置付けられているのがモバイルとネットワークだ。前者は具体的にはスマートフォンやタブレット、後者は無線LANやネットワーク仮想化/SDN(Software Defined Networking)などへの投資が増加傾向にある。
モバイルとネットワークへの投資増は、もちろん密接に関係している。ITR プリンシパル・アナリストでネットワークを担当する甲元宏明氏も、「IT部門はこれまでどちらかというと無線LANを敬遠してきました。しかし、ユーザーのニーズに後押しされる形で一気に普及が進みました」と語る。
有線LANと違って目に見えない無線LANは、セキュリティへの不安もあって、できるだけ触れたくないというのが、多くのIT部門の本音であった。だが、営業やマーケティング部門を中心に企業のモバイル利用が定着したことで、タブレットなどを社外および社内で同じように使いたいという声が高まり、見て見ぬふりはできなくなった面がある。
もちろん、ただネットワークに接続できればいいというわけではない。無線LANの管理とセキュリティは今後も大きな課題になる。甲元氏も「当社の調べでは85%の企業が何らかの形で無線LANに投資しているという結果が出ています。ただ、実際は安価な無線LANアクセスポイントを各部門で勝手に導入しているだけ、といったケースが大企業でもいまだに見られます。接続するデバイスの管理や、電波の強さをリモートで変えるなど最適な環境を維持するためのチューニングには、エンタープライズ用の無線LAN機器を導入する必要があります」と、相応の投資の必要性を強調する。
クライアントPCもデスクトップ型よりノート型の利用が増え、オフィスの完全ワイヤレス化を志向する企業も少なくない。さらに今後、私物端末の業務利用(BYOD)などが浸透してくる可能性もある。無線LANの伸び代はまだまだ大きい。「無線LANアクセスポイントやプリンタなど固定的な機器への接続を除き、オフィス内のクライアントデバイスは無線LANの利用が主流になっていくでしょう」と甲元氏は語る。
無線LAN導入はエンドユーザーだけでなくIT担当者にもメリットをもたらす。もともと金融機関など一部を除き、日本ではIT部門の中にネットワーク専門の技術者を抱える企業はそう多くない。運用管理が不安で無線LANの導入をためらってきた担当者もいるだろうが、昨今はGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)で操作も簡単な無線LANコントローラーもある。むしろ担当者がネットワークに割かれるリソースを少なくできる可能性が高い。
ネットワークの分野で投資意欲の高い技術・製品としてもう1つ注目すべきは、SDNだ。ITR代表取締役でプリンシパル・アナリストの内山悟志氏は、同社が発行する『ITR Review』12月号の中で、「2015年に注目すべきIT戦略テーマ」の1つとして「ビジネス起点で策定する次世代IT基礎戦略」を掲げ、2017年までに国内大企業の50%以上がSDNを導入し、ネットワーク仮想化を実現すると予測している。
大企業に限った話とはいえ大胆な予測にも思えるが、ユーザー企業のIT導入支援も多く手掛ける甲元氏は「SDNをOpenFlowだけでなく、イーサネットファブリックも含め、ネットワークを何らかの形で仮想化してソフトウェアで制御するものだと捉えれば、全社でということはなくても、何らかの形で導入している企業は意外に多く、SDNへの関心は実際に高い」と言い切る。
企業のIT部門がSDNに期待するのは、まず運用管理負担の軽減だという。「必要に応じて迅速かつ柔軟にネットワークの変更が可能なSDNは、現状のネットワークの運用に悩んでいる担当者には魅力的です。データセンターや拠点のスイッチを少し変更するのにも外部の業者に設計を委託して、実際の変更までに1カ月かかるといったことはざらにありますから」(甲元氏)
外部のアプリケーションと接続してネットワークを自動化するなど、SDNのメリットはいろいろあるが、まずは運用が楽になることが大事というわけだ。ユーザー企業のIT部門にネットワークの専門家が少なく、何から何まで外部に委託せざるを得ないという日本独特の事情を反映しているともいえる。
「今後はSDN対応の無線LAN機器なども出てくるでしょう。現状では有線LANと無線LAN、さらにはWANやデータセンターと、それぞれバラバラだったエンタープライズのネットワークの運用管理がゆくゆくは1つに統合されて集中管理の方向へ向かっていく。そうすることで、多くの拠点を抱える大企業ではとりわけメリットが大きい。実際、そういう考え方でネットワークの再構築を進めている企業は既にあります。2015年には具体的な事例も出てくるのではないでしょうか」と甲元氏は語る。
SDNを中心としたエコシステムも広がっていく。シングルサインオン(SSO)製品と連係して動的にネットワークを割り振ったり、セキュリティ製品と連係して攻撃を受けた端末をネットワークから動的に遮断したりといったSDN製品も続々と登場してきている。
トラフィック量のみならず、求められる役割においても、ネットワークは大きく変わってきている。無線LANにしろSDNにしろ、初期投資にはある程度お金も掛かるが、長い目で見れば運用管理コストは下がる。ネットワークの“煩わしさ”から解放されることで、IT部門がより戦略的なIT活用に目を向ける契機にもなるだろう。2015年も、この分野のさらなる進化に注目していきたい。
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