「プライベート5G」「ローカル5G」の落とし穴 “超高速”は単なる理論値?プライベートネットワークとしての「5G」【後編】

「5G」のプライベートネットワークは、過去のネットワーク技術をしのぐ性能を発揮できる可能性がある。ただし、その利点を引き出す工夫をしなければ期待外れに終わってしまう。どのような工夫が必要なのか。

2021年03月16日 05時00分 公開
[George LawtonTechTarget]

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 中編「『プライベート5G』『ローカル5G』を構築する手段とは?」に続く本稿は、「5G」(第5世代移動通信システム)をプライベートネットワークとして利用する場合に知っておくべきポイントや注意すべきポイントを紹介する。5Gの利用において、パブリックネットワークではなくプライベートネットワークを利用する大きなメリットは、特定の用途に応じてパフォーマンスを最適化できる点にある。プライベートネットワークでは、ネットワークトポロジー(ネットワーク構成)をニーズに応じて制御できるからだ。

 「セミプライベートネットワーク」として、「市民ブロードバンド無線サービス」(CBRS:Citizens Broadband Radio Services)に5Gの利用を広げる動きもある。CBRSとは、米国政府が持つ3.5GHzの周波数帯域(3.55GHz〜3.70GHz)を解放し、民間と共用するサービスのことだ。CBRSの周波数帯域は、3つの階層に分けてアクセスの優先度が管理されている。一般的な公衆無線LANサービスよりアクセス管理は厳格だが、5Gの免許を取得して自社専用のネットワークを構築する「ローカル5G」と比べればアクセスしやすい。

 CBRSは、公衆無線LANサービスよりは電波干渉が低減する見込みだ。ソフトウェアベンダーZEDEDAのエコシステム担当バイスプレジデント、ジェーソン・シェパード氏は、「CBRSはプロセス制御やロボット運用など、レイテンシ(遅延)に敏感な用途で5Gを利用する場合に適する」と話す。

 5Gをプライベートネットワークとして利用するメリットの一つは、コストを抑制できる可能性があることだ。エッジコンピューティングによってデータの発生元でデータ処理をすれば、課金対象となるWAN帯域の使用を抑制できるからだ。

5Gのプライベートネットワーク導入の落とし穴

 5Gのプライベートネットワークはさまざまな可能性を秘めている。ただし無線LAN技術を完全に代替することはないとシェパード氏は予測する。「結局のところ、われわれが無線LANやBluetooth、移動通信を使い分けることには理由がある。無線LANは今後も、バックオフィス業務やゲストアクセスとして広く使われるだろう」(同氏)

 理論上、5Gのデータ伝送は極めて高速だが、課題が幾つかある。例えば“超高速”と表現する場合の5Gは、ミリ波のような高い周波数帯の利用を前提にしている。だがこうした高周波数帯の電波は、雨や遮蔽(しゃへい)物に弱く、電波が減衰しやすい。

 デバイスへの5Gの実装方式でも問題が生じる懸念がある。「主要な無線アクセスネットワーク(RAN)機器ベンダーは、5Gによるデータ伝送のパフォーマンスと信頼性を高めるために、独自の実装方式を採用するケースが少なくない」と、ネットワーク監視ソフトウェアベンダーMantis Networks(MantisNet)のCEO、ピーター・ドーアティは指摘する。そのような実装方式の違いにより、干渉が発生する可能性がある。

 干渉問題の解決に向けて、RANの標準化を目指す業界団体「O-RAN ALLIANCE」の取り組みは希望の光になる。「次世代RAN機器の機能や挙動は、共通の仕様で定義され、標準化される。機械学習などのAI(人工知能)技術を用いた高度な分析により、干渉を最小化できる可能性もある」(ドーアティ氏)

 こうした干渉を避けるための取り組みが進んだとしても、完全に仕様を標準化しない限りは通信が遮断してしまう可能性は残る。ドーアティ氏は「全ての主要な機器ベンダーが協力し、業界全体のために最善を尽くすことによってのみ、5Gを使ったプライベートネットワークの可能性を引き出すことができる」と指摘する。

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