ITのイノベーション(革新)は、全てのCIO(最高情報責任者)が検討すべき課題である。本稿では、米7-Elevenでイノベーションを実現したリーダーが説くイノベーションチームの構築に関する8つのステップを紹介する。
米Southland Ice Company(以下、Southland)に勤務する1人の従業員が素晴らしい名案を思い付いたのは87年前のことだ。それは、会社の代名詞である氷と一緒に、卵やパン、牛乳を販売したらどうかというアイデアだった。こうして「Tote'm」(トーテム)と呼ばれる米国初のコンビニエンスストアが誕生した。また、1946年には、週7日、午前7時から午後11時までという営業時間の延長に合わせて、店舗の名称を「7-Eleven」に変更した。そしてSouthlandは世界最大のコンビニエンスストアチェーンへと発展する階段を上り始めた。
7-Elevenの長い歴史には、幾つものイノベーションがあった。コーヒーのテイクアウト、24時間営業、セルフサービスのドリンク販売機、そして庶民文化の象徴でもあるフローズン炭酸飲料の「Slurpee」(スラーピー)などが挙げられる。後に店舗中央の棚に陳列する商品の販売統括責任者となったロブ・チャムリー氏にイノベーションのスイッチが入ったのは、2011年のことだ。このときチャムリー氏は「グレーズドドーナツを2個1ドルで販売する期間を延長するメリットは何か」を議論する極めて退屈な会議に出席していた。世界最大のコンビニエンスストアチェーンである7-Elevenは、新たなイノベーションを必要としていた。
「私は立ち上がり、会議を中座して、その足でCEO(最高経営責任者)の部屋に向かいました。そして『お時間はありますか』と尋ねたのです」。チャムリー氏は、米ニューヨークで最近開かれた「Chief Innovation Officer Summit」で、出席者を前にそう話した。
今日7-Elevenは、全世界で毎日800万人もの顧客にサービスを提供している。だが、「世界の他の企業も手をこまねいているわけではない。20世紀の終わりから、小売業界は急速な進化を遂げている。世界は、まさにこれからオンデマンド経済の時代に突入するところだ」というのがチャムリー氏の主張だ。
チャムリー氏は、CEOであるジョー・ディピント氏から全面的な支持を取り付けた。現在、チャムリー氏はイノベーション部門の上級統括責任者として7-Elevenのイノベーションを先導している。イノベーションチームが重点的に取り組んでいるのは、顧客サービスの向上、デジタル媒体による顧客とのつながりの構築、そして顧客に関連する新たな問題の発見と解決だ。チャムリー氏はこれまでに学んだ幾つかのことを、これからイノベーションチームを構築する人に伝えている。アドバイスのポイントは次の8つだ。
チャムリー氏はCEOであるディピント氏の支持を得た。ディピント氏は、イノベーションチームを構築し、必要なものを準備することを承認した。また、その作業を「2012年以降、毎年続く全社レベルの戦略的構想」と位置付けた。
イノベーションチームの作業は、企業の日常業務から切り離されたものであり、その理由は単純かつ戦略的だ。チャムリー氏は「真の改革をもたらすものは、日常業務の片手間に生まれるものではない。また、そうであってはならない。これほど重要な作業を日常業務の片手間に行っているのであれば、仕事を抱え過ぎだ」という。
イノベーションに関する実用的な定義を設け、チームが目指すイノベーションのあるべき姿を明確にすることが重要だ。「われわれは、既存の概念を覆すイノベーションのみに注力することを明確にした。そして、新たな問題、ソリューション、ビジネスモデルに目を向けている」とチャムリー氏は話す。Slurpeeの新作フレーバーなど、段階的なイノベーションは他の部門に任せている。
チャムリー氏と彼のチームは「『できるからやる』という理由でイノベーションに捕われる状況は絶対に避ける」ことで同意していた。チャムリー氏は米The Coca-Cola Companyが販売していた「Diet Coke Plus」の話を例に挙げた。Diet Coke Plusの製造は2011年に中止されたが、「Plus」(プラス)という名称は、成分にビタミンと抗酸化物質を混ぜていることに由来していた。「ビタミンが入っているからといって、Diet Cokeを飲む人が飲む量を増やすはずがない。一方、ダイエット炭酸飲料をあまり好まない人が、ビタミンが入っていることを理由にDiet Cokeを飲むはずもないだろう。『できるかどうか』と『やるべきかどうか』は別の話だ」とチャムリー氏は語る。
チャムリー氏は人事担当者に「7-ElevenのDNAと呼べるもの。当社の特徴、従業員にどう行動してほしいか、そしてどのような価値観を持ってほしいかを示す基準」を書いて渡した。求めていたのは、知的好奇心、左脳スキルと右脳スキルのバランス、現状に甘んじない精神であった。チャムリー氏は、これを現在の従業員の人事データと比較するよう人事担当者に依頼した。1週間後、人事担当者は、25人の従業員の名前が書かれたリストをチャムリー氏に手渡した。「初期に採用した従業員の名前が1人残らずリストアップされていたことを誇りに思うよ」とチャムリー氏はいう。
チャムリー氏は、ピーター・ティール著の『ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか』に書かれているアドバイスをもとに、「自分で作るか他から買うか」を慎重に考えることを提案している。これはリトマス試験のようなものだ。まず、顧客が自分の会社に注目し、信頼を寄せるかどうかを考える。答えがノーであれば、SaaS(Software as a Service)や外部プロバイダーの利用を積極的に検討した方がよいとチャムリー氏は考える。「自前のソリューションを持っていない場合に、自力で何とかしようとするケースが多く見られる。だが、そのように対応すると、製品化は遅れ、費用も掛かる。また、インパクトの薄いソリューションになることも少なくない」(チャムリー氏)
ベンチャー企業は一晩で急成長するわけではない。イノベーションにも同じことがいえる。チャムリー氏は「新たなイノベーションの構想は、ゆっくり温めて成長させ、重要な顧客の心に浸透させていかなければならない」と語る。また、成長を測るときには古い基準に頼らないことが肝要だ。「最初のうちは、必要以上に多くの人的リソースをイノベーションに費やすことになるだろう。だが、彼らを支え続けることは重要だ。顧客以外の誰かがイノベーションの構想やアイデアをつぶすことがあってはならない」とチャムリー氏はいう。
チャムリー氏によれば、イノベーションチームの存在自体に腹を立てたり、不安を覚える人もいる。従業員は、イノベーションチームの存在を、リーダーが自分たちの業績に満足していない証と捉えることがある。リーダーが年長者であってもこうした誤解から免れることはないという。「自尊心と存在意義を植え付けて、他の従業員から思いも寄らない嫉妬を買わないようにすること。イノベーションチームのリーダーは、これらを実現するための努力を続けなければならない」とチャムリー氏は語る。
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